君に幸あれ















「ここってクールーク皇国の近くなんだ。知ってた?テッドくん」
「・・・・・・ああ。」
「知ってたんだ。」

クールーク皇国に近ければ、群島にも近い。
なんとかアルドが気を変えて帰らないかとテッドは思っていたのだ、が。
「僕の意志は変わらないからね?」
言われてテッドはぐっとつまる。
「・・・・・・・・それにしてもクールーク・・・・・・・・すごいところだね。」
急に真顔になったアルドはため息をつく。

アルドにこんな表情をさせたのは先ほど起きた事件でのことだろう。
宿を取る前に夜鷹にあったのだ。
そのような経験などこれまでなかっただろう、アルドは疲れきっていた。
民が痩せ細り、明るい群島の人たちから比べるとひどい有様と言ってもいい。

「こういう宿は店のやつだって盗人だからな。油断すんなよ。」
「・・・・・わかった。」
年齢を物語る経験にアルドはおとなしく頷いた。















「それにしてもよ、ラズロさん。アンタ無人島でカニ取ってたんだって?
そんなんするぐらいなら海賊島にこねぇか?」

キャラバンに入ってきたラズロにかけられる声は多い。
自分がリーダーでない集団は新鮮で気が楽だ。
しかし、やはり一度長に付いてしまうとやはり目立ってしまうらしい。

そう考えるとあんな方法でリーダー役を押し付けたリノの気持ちもわかる。
キカはよく自分をわきまえられるな、とラズロは感心する。

ともかくも、今日もかつての仲間が声をかけてきた。ハーヴェイだ。
「お久しぶりですハーヴェイさん。」
「ああ。まぁつってもアンタは来ないか。」
「ええ、今はリノさんたちがよくしてくれてるし。」
「・・・・・・・もうあんま離したくねぇんだよ。アンタが死んだと思ってたとき、一番苦しそうだったからな。」
「・・・・・・・そうですか。」

ハーヴェイはラズロをくしゃりと撫でる。

「ヘルムートとか知らねぇんだなぁ・・・・・アンタが生きてるって。」
「・・・・・・・・・」
懐かしい、仲間達の姿を思い浮かべる。
「ヘルムートさんか・・・・」
「クールークだから敵として出会うかもなー。そしたらアンタを餌にぶっ飛ばす。
・・・・・後は知らないっつったら・・・・・アルドとテッドとかか?あいつらもフラッといなくなったからな。」

ハーヴェイがその名を口にしたとき、とくんっと罰の紋章が騒いだ気がした。
・・・・・・真の紋章を微かに感じて。













その夜、テッドの言う通り夜襲があった。
もっとも、その複数の盗人は二人が起きたのをみると一目散に逃げ出したが。
身を起こして身構えた二人はだが呆気に取られたのだ。
・・・・・盗人は子どもだった。
「・・・・・テッドくん、もう引き返さない?」
良心の塊のアルドにこの国は確かにつらいだろう。
テッドも別に居たいわけでもないから頷く。

「・・・・・・・・・・・あ」
「あ?」

アルドは何かに気付いたように目を瞬く。
「ピアスがない。素早いな・・・・」
「っ盗まれたのか?!今から追えば間に合う。」
テッドは呑気そうに呟くアルドと対称的に腰を浮かす。
「うんでもいいや。そんなに価値はないと思うけど少しでもあの子達が助かるなら。」
「お前・・・」
ピアスといえば物欲のないアルドの唯一の嗜好品である。
なのに簡単に手放そうとする。
それが危ういことのような気がしてテッドは不機嫌になる。

「アル――――・・・・・?!」

が何かを言おうとすると急にまばゆい光りが見え、複数の悲鳴が消えた。
耳のいい二人が捉らえた音だ。
示し合わせたでもなく二人は外に飛び出す。

「上等なピアスじゃねえかっこれはもらってくぜぇ!」
裕福そうな商人が焼けただれた少年たちから翡翠のピアスを奪うのが見えた。
少年たちはすでに意識がないらしく、ぴくりとも動かない。
下品な笑い方をしながら商人はアルドたちに気付かずに去っていった。

「・・・・・・しっかり・・・・!」
アルドは言いかけて眉を寄せる。
瞳孔が開いている。
「・・・・・・・・強い電撃だった。痛みはなかっただろう。」
テッドはそう言いながら顔を伏せる。
―――そんなこと、なんの慰めにもらない。幼い命は失われた。

傍に膝をついていたアルドは僅かに拳を握る。
テッドの方を振り返らず、固く引き結んでいた口を開いた。
「・・・・・・・前言、撤回してもいいかな」
「追おう。」
アルドが何かを言う前に、テッドは弓を握り締めた。















「ラズロ」
「スノウ・・・」
「大丈夫かい?疲れてる?」
「大丈夫。」

ラズロは左手を注意深く観察する。先ほどの疼きが気になる。
「・・・・・・紋章が?」
「だ、大丈夫。」
不吉な感じはしない。
しかし、・・・・・・

「真の紋章を宿すと不老になるんだって。・・・・・少年だと思ってたのに、150歳を越えた人に会った。」
本当はスノウも知っている人だったのだが。
ラズロは自分と同じように呪いの紋章をその手に宿した少年を思い出す。
命が削られないから、自分は呪いから解放されたと思っていた。

しかし、切り取られた時間そのものが・・・・・ラズロを苦しめた。

「スノウに寿命が来ても、僕は生き永らえる。」
「・・・・・・・・ラズロ・・・君は」

スノウは戸惑うように俯く。

「君は・・・・・・去ってしまうつもりかい?」
「・・・・・・・」

スノウの質問に、すぐには答えられなかった。
「・・・・・・・・・・・・・わからない。」
ラズロは正直に述べた。
「ラズロ・・・・・・・」
笑って、そんなことはないとは言えなかった。
まだこんなにも、呪いは自分を蝕む。















「あのピアス、大切なものなのか?」
走りながらテッドは問う。
「ううん、別に。あれは所属を表すだけの便宜上つけられたものなんだ。
島の風習で。金具のところに多分僕の名前が刻まれてる。」
「そうなのか・・・・」
何か大切な想いでもあるのかと思って今まできいてこなかったがなんてことはないらしい。
「獣とかに喰われて顔とか判別つかなくても、コレで誰なのかわかるでしょう?
・・・・その為のものだから別にあげても良かったんだけど・・・・でもあの人に持って行かれるのはイヤだな。」
「だろうな」

相槌を打ちつつテッドは眉を潜める。
そんな話を聞かされて、つい、そう遠くないアルドの結末を想ってしまった。
きっとアルドのピアスを見るのが恐くなるだろう。

「・・・・・」
アルドはそんなテッドの様子を敏感に悟った。
だがテッドはアルドの前を走っていたため、アルドは気遣うようにテッドを見つめていたことに気付かなかった。

その代わりに精度の高い視力が目的のものを捉えた。
「アルドあれだ。」
「あ、うんっ」
背の高い草が覆い繁ったそこは、枯れたような色をしていて寂しい。
そんな中に、アルドのピアスが、そこだけ息吹くようにテッドの目を引いた。















「クエストだっけ?」
「そうです。チープー商会からの。」
「あ、チープー?そっか。クールークにも手を出してるんだ。」
「はい。ザスタに悪徳商人が出るから調べてほしいって。」
キリルの一言にラズロは頬を綻ばせる。
「チープーさんとも知り合いなんですね。」
「うん。一番心細かったときにそばにいてくれた大事な友達。」
「・・・そうですか。」

ラズロはそっと左手を撫でる。罰を背負ったとき、そして罰から解放された後
大事なときにいつもあの毛並みがそばにいてくれた。

商人として働いていても無人島にラズロが行けば、いつも笑って迎えてくれた。
自分と、彼にとって、大切な場所で。

「キリルくん、僕も出たい。」
「はい、別にいいですよ?」

チープーの為になるなら、頑張ろう

ラズロは珍しく遠慮せず、自ら先を走りザスタに向かって行った。






ラズロがそこへたどり着いたとき、すでに悪徳商人らしき人は誰かと対峙していた。
背の高い草のせいで誰がいるのか分からなかった。

だが

「返せよ。それはコイツのなんだ。」
ぶっきらぼうな声に憶えがあった。
「なんのことですかい?これはあっしのもんでっせ?」
「いえ、あなたにあげたつもりはありません。あの子たちにならいくらだってあげるけど。」
そしておだやかそうな声。

「この声、テッドとアルドか?」
ラズロの気持ちを代弁したのはケネスだった。
「お知り合いですか?」
とキリルが口を開いたところでキリルにとっては初めて、ケネスたちにも珍しい光景を目にする。

「テ・・・・・・・・テッド!アルドっ!」
ラズロがなんの作戦もなく駆けていってしまったのだ。
「え、ちょっとラズロっ!」
「待てラズ――――もういい、ツノウマっ!ハーヴェイさん、それからポーラ、付き合ってくれっ!」
「よっしゃ」
「はい」
ケネスとハーヴェイはツノウマに、ポーラはイワドリに乗ってラズロを追う。

少し迷ってハーヴェイはキリルの首根っこを掴むと担ぐように連れて行く。
リーダーをたてる姿勢は本当に海賊はしっかりしてる。
「キリル様も行こう。多分ケネスの野郎はツノウマかイワドリに乗れる火属性ってだけで俺を呼んだだけだろうし。」
「あ、ありがとう・・・。」
気になっていたから素直に嬉しい。後ろでアンダルクの慌てた声がするが後でなだめておこう。






「な―――」
「ラズロさん?!」


二人の弓使いは驚きを露わに一瞬無防備になる。
「危ないテッドくんっ」
だがアルドはテッドの向こうに斧を構える敵を見つけ、テッドを退かし、代わりに衝撃を受ける。
「うわ、悪い・・・」
テッドはそう言って弓を引き絞るとその商人に雇われたゴロツキを射止める。

「ちぃ!仲間までいやがったのか!」
「やっちまえっ!」
声高に商人が叫ぶのを図ったように、ケネス、ハーヴェイ、ポーラ、キリルの四人が戦列に加わる。
ケネスはまずテッドとアルドの属性を見抜いていた。

テッドは雷、アルドは火

だからこそ自分とハーヴェイだった
ラズロのフォローをポーラに任せて、自分はテッドの近くに降りる

雷地帯をテッドと自分の足元に発動させる
ハーヴェイもまたラズロとポーラを気遣いつつ、アルドの中心に陣を出現させ、後から自分も滑り込んだ。
ハーヴェイは短絡思考に見えて、意外と周りをみている。
敬愛する自分の首領と、弟分のナレオが共に風属性だから、陣を気にしながら敷くのもお手のものだ。
ハーヴェイはああ言ったが、ミレイではなくハーヴェイを呼んだのはそこに起因する。
キリルもそこのところ、風にはセネカがいるから割りと慣れている。

「ふっ!―――数が多いな・・・。」

ケネスが一閃しつつうなる。ラズロが罰魔法でじりじりと減らすが効果が如実に現れるわけでもない。

「あの、テッドくん――」
「・・・・・・わかってるよ仕方ないな。」

まさかソウルイーターか、とケネスは慌てるが、二人は別の手段に出ていた。

「『弓矢攻撃』!!」

背中を預け合って矢を連射する。
弓矢を使った協力攻撃はセネカたちのものが記憶に新しいが、範囲こそあれより狭いが二人の放つ矢は一本一本がもっと精度があり
それだけに威力もあった。

「すごい・・・!」

キリルが感心したように呟く。
ソウルイーターでなかったことにホッと息をつくそばでポーラがそっと囁く。

「ケネス、アルドさんがいるのだから、杞憂です。」
「そう、だったな。」

そう、いつだって彼は、テッドが苦しむことは一つを除いて強要しない。

「っあー!!あの商人逃げやがったぞ!」
「あ」
「・・・・ちっ」

ハーヴェイの視力が捕らえるが、既に商人は追いつける距離にない。
テッドは迷いなく弦を引くが商人の姿はザスタの草に隠れ、足を止めることはできなかった。

「何か盗まれましたか?」
「まあな。あいつの行きそうな場所に心当たりあるか?」
迷いなくキリルがテッドにきくと簡潔に答えと問いがかえってくる。
「はい。おそらくメルセトだと思います。ぼくたちもこれから行くところだし、一緒しませんか?」
「・・・・――」
一瞬テッドの表情が曇る。
そのとき、今まで気にはなっていたものの微動だにしなかったラズロが声を発した。

「テッド、アルド・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・ラズロ・・・・・」
生きていたのか
アルドの言うように、自分たちの想いとやらが紋章に影響したというのだろうか。

しかし目の前の彼はどこか頼りない。
なんだろう、真の紋章から解き放たれたのではないのだろうか。

「目的地は同じなんだから、そこまで一緒に行くくらいはいいんじゃないかな?」
迷うテッドの肩に手を置いて、優しくアルドは言う。
アルドには分かっているのだろう。
ラズロのことが気にかかっている事実が。
「・・・・・・・・まぁ、いい。けど、そこまでだから。」

テッドがそう言ったのでアルドは笑みを深くして、改めてキリルに向き直る。
「ご挨拶が遅れました。僕はアルド、こちらがテッドくんです。」
「キリルです。あの、よかったら仲間になりませんか?ぼくたち紋章砲を追って旅をしてるんです。」
「―――それはできない。あまり俺に構わないでくれ。」
「ごめんなさい。今回も僕がうっかり向こうの国境で荷物を盗まれたから戻ってくれただけなんだ。」

テッドはアルドに否定の言葉を吐かせないために先に言ったが、アルドはそれを良しとせず、自ら首を振った。

「でも、別れるまでの間ならいくらでも力になるよ。」
もちろんそのままでは終わらないのがアルドという人間だ。
キリルも初めて会う人にも関わらず、優しい人間であることを悟った。

「あ、じゃあぼくはこれで。・・・あの、ラズロをよろしく。」
キリルは二人を呼んで以来ピクリとも動かないラズロを心配しながらそっと身を引く。
「大丈夫だよ。ラズロさんとテッドくんは仲良しだから。」
「―――こら、何勝手なこと言ってやがる。」

短いやりとりではあったがケネスは驚く

テッドは自覚しているだろうか
船にいたときよりも、二人の仲は親密だ
そう、そもそもアルドの荷物が盗まれて、戻ってきてしまう程度には

アルドの為を思うなら喜ばしいことだが、だいたい紋章のことを把握しているケネスとしては結末も予測できる
テッドのそのときの心中を思うと喜んでばかりもいられない

「ケネスさん、ポーラさん、ハーヴェイさん、僕とお話しませんか?」
アルドはそう言ってラズロとテッドから距離をとりつつ、残されたメンバーに笑う。
「後でな。キリル様を送ってくっからさ。」
「ではわたしとケネスはそのように。・・・・・あ」
「アルド!その・・・・・僕もいいかい?」
ポーラたちの向こうからスノウが駆けてくる。
アルドはあの頃と同じ笑みで頷いた。






「このところラズロが元気がないんだよ。
・・・・紋章が原因なんだと思うんだけれど、何かわからないかな?」
スノウは一息にそう切り出した。アルドは少し驚いていた。
「どうしてそれを僕に?」
テッドの紋章のことはごく一部しか知らないはずだ。
けれどこの口ぶりは。
「―――ラズロとテッドは少し似ているから、なんとなくだけど。
ラズロのことを昔から知っている僕たちは気付いていると思う。多分ケネスやポーラも。」
「・・・・・・・そう。」
話を振られ、ケネスとポーラも曖昧な表情を浮かべる。
もっともケネスはラズロと共に霧の船に潜り込んでいるため、そういう理由ではなく知っているのだが。

飾らないスノウの言葉にアルドはそっか、と笑った
「ラズロさん、さっきあの紋章をたくさん使ってたけど、もう大丈夫なの?」
「うん。もう解放されたって言ってた。」
「そっかよかったね。」
ひとまずスノウも頷く。
「ラズロは・・・・・ラズロの命が不老になることで悩んでいるみたいなんだ・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・」

アルドは空を見上げた。
思い浮かんだのは、ラズロと、そしてテッドのこと。

「僕たちは、いつかラズロさんたちを置いていってしまう・・・。」

そう遠くない昔に、アルドはスノウがブチ当たった問題に当たり、そして今も越えたとは言い難い。

「でも、今それを怖れて離れていったりしたら駄目だよ。
だって僕に残された時間は後僅かしかないんだから。」

いつのまにかアルドは自分に言い聞かせるように語り始めていた。
でもスノウは一言も発さず食い入るようにみつめる。
「きっと―――きっと想いだけは残ると信じてる。
僕がいた想い出とか、温かさとかが、少しでもテッドくんの長い時間に灯る光になればいいと思う。
・・・・だから、限りある時間を、いずれ等しく訪れる別れを怖れるためだけに割きたくない。―――と僕は思ってる・・・。」
アルドは微かに哀愁を漂わせてそれでも確かな表情で頷く。

じっと聞いていたスノウは俯く。

「スノウ・・・・・」
心配になってケネスが声をかける。
「僕はやっぱり駄目だな・・・」
スノウは呟いて頭を抑える。
「ラズロの心配をしているつもりだったんだけど、どうやら違ったみたいだ。
・・・・ラズロには僕以外の友人が何人もできて、いつか僕を忘れてしまうことを怖れていたみたいだ。」
「スノウ」

ああ、確かにその想像は寂しい。
でも

「―――ラズロさんは優しいから、きっと何人も友達ができると思うけど、ラズロさんにとってのスノウくんは一人しかいないよ。」
アルドはこともなげに言い切った。
「忘れないとは僕には言い切れないけど、それはスノウくんだって同じこと。年をとって痴呆症になりでもしたら、ラズロさんのこと忘れてしまうでしょ?」
「・・・・ええっと・・・・・。」
スノウは何も言えなくなってケネスをみるがケネスも肩をすくめる。
「あ、でも普通目の前に知らない人がいたら笑わないよね。すごく驚くもの。
なのに痴呆症とかにかかった人って子どもに会ったりすると楽しそうに笑うし、きっと心のどこかでは覚えてるんだよ。うん。」
アルドは一人で頷きスノウに向き直る。
「大丈夫!ラズロさんはスノウくんを忘れないよ!」

向き直られたスノウはしばし戸惑っていたが、やがて吹き出した。

「?・・・え?僕なんか変なことをいっちゃった?」
「ふふふはは!いや・・・―――うん、やっぱりアルドに相談してよかったよ。おかげで僕も覚悟ができた。」
「スノウくん?」
「うん、大丈夫。僕はもう迷ったりしないさ。」

スノウはきっぱりと言い切った。
ケネスとポーラは顔を見合わせる。
・・・・だから、もう一人の表情は誰の目にも止まらなかった。
慈愛に満ちた、全てを優しく包む笑み
もう一度、空を見上げ
今向き合う紋章の申し子たちを想った











「ラズロ・・・・生きてたんだなお前。」

アルドがケネスたちを連れて離れていった。
人の心を機敏に察するのはアルドの方が得意だからこの状況はラズロが望んだことなのだろう。
・・・・――――いや、テッドが望んだことなのかもしれない

とりあえず感想を述べておく。
ラズロは一つ頷いた。
テッドはその態度に焦れた。
「・・・・どうしたんだよ。紋章から解放されたんだろ?―――怖くなったか?時間から切り離されて生きることが。」
ラズロは顔をあげた。
いきなり言い当てられて驚いたんだろう。
「・・・・・まぁあの戦いの時は、変なこと考えてる余裕なんてなかっただろうから無理もないけどな。」
「ごめんテッド、ぼくちょっと無神経―――」
「別に。気にしてない。」

長い間時間から切り離されて生きてきたテッドを前にそんなことで悩む自分はひどいとラズロは思った。
「俺はお前と違ってコレを宿したとき友達いなかったから、正直完璧に気持ちが判るわけじゃないけど。
アイツらの寿命いっぱいぐらい付き纏えばいいじゃねぇか。
俺のと違ってもう害はないんだし―――・・・」

テッドは言いかけてため息をつく。

「いや―――やっぱそうもいかないか。成長しないと気味悪がられるし・・・・・・第一お前ハルモニアの連中のことは知ってるか?」
ラズロは首を振る。
テッドは頷いて、自分の知りうる情報をできるかぎり全てラズロに教えた。

「―――やつらは真の紋章を欲してる。まぁ、自分の命を喰らう紋章まで欲するかはわかんねぇけど、様子ぐらいは見に来るかもしれない。」

ラズロはその話を聞いて一つ謎が氷解した。
『ともに追われる身なれど』とレックナートは言っていたのだ。
あの時はクレイ商会のことかと思っていたのだが、きっと真の紋章を追うやつらにレックナートですら追われていたのだ。
「―――そっか・・・。テッドが旅をする理由は、単純に紋章による効用だけじゃないんだね。」
「・・・まぁ・・・そう。」

ラズロは大きく息をはく。

「それじゃあやっぱり僕も旅しようかなぁ・・・。」

スノウたちを、――――この群島を、巻き込みたくはない。
だけど―――


「ラズロぉー?いるー?」


そこに脳天気な声。
「ジュエル?」
「よ!テッドもいっしょかぁ。」
「・・・・・ああ」
「ねー、スノウ見なかった?タルとケネスもいないんだけどさ。」
「え?ごめん知らない。クエストは?」
「三人揃って?さっきまではケネスとスノウと一緒だったってポーラがさ。」
ラズロは腰を上げる。
「僕、キリルくんのとこいってくるね。」
「―――おい」

早速いなくなろうとしたラズロにテッドは声をかける。

「・・・・力に・・・・なれなくて、ごめんな。」
バツが悪そうに顔を背けるテッド。
「・・・・・」
ラズロは破顔した。
アルドがテッドに構う気持ちがわかった気がする。
テッドは本当に優しい。
いつもギリギリのところで。
「ありがとう。この世界のどこかにテッドがいると思えば、やっていけると思うよ。」
「・・・・・・・・・」




罰の紋章が自分が死んだときに再び命を刈らないならば、テッドと一緒に行けたのに
世界と人の為に、自分はテッドと一緒に行くことはできない












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